優しくないっ、優しさを感じない!
「…よくもまぁそれだけ人の事バカに出来るね、しかも昨日知り合ったばっかだっていうのに。逆に馴れ馴れしい!」
「いや、おまえに言われたくないよ。その昨日知り合ったばっかの人間の事勝手に引き止めて、自分のイザコザに付き合わせようとしたクセにさ」
そう言うと、進藤はあたしに向かって真っ直ぐ向き直った。そして少し屈むようにしてジッとその瞳で見られたあたしはーーなんだか何から何まで悔しく感じて、とにかく睨み返してやる。きっとあたしの事バカにするつもりで見てるんだと思った。負けるもんか。意地でも逸らしてやるもんか!
すると、そんなあたしを見ていた奴は、「ふぅん」と意味有りげに小さく呟く。…そして、
「正直、すごい迷惑…と思ったけど、まぁいいか」
何故か次は、ニッコリ笑った。それは始めに見せた、あたしを騙したあの笑顔。爽やかで優しい素敵な笑顔。
「そこまでいくと、結構嫌いじゃない。まぁたまにはいいかな」
…なんていう、意味の分かんない言葉。それを奴はあたかも普通の事みたく堂々とあたしに告げる。
訳分かんない。訳分かんないし、やたら上目線な感じでなんかムカつく。…でもその言葉に、その笑顔に、あたしは不覚にもーードキンと、心臓が返事をしてしまった。…くそ、ムカつく。悔しい。バカにされてるのに、それなのに何故か、何故かこいつの雰囲気に流される。
これが原因かと、気がついた。整った顔にスラリと高い背。それに色素が薄い髪の毛と瞳の色から漂う柔らかな雰囲気。そんな奴にこうやって微笑まれたら、誰だってときめいてしまう。これが噂の原因だ。皆がコイツを優しいと勘違いしてしまう原因はこれだったのだ。
「…ムカつく」
「は?」
「あんたって結構嫌な奴だ」
「…いやいや、俺今おまえの事褒めたんだけど」