優しくないっ、優しさを感じない!
それに、“は?褒めた?どこがだよ!”…と、口に出そうとした、ちょうどその時だ。次の電車がきますと、アナウンスがホーム全体に流れてきて、あたしの意識はそっちに持ってかれた。するとそれはどうやら進藤も同じだったようで、「あ、やっと来る」なんて独り言を呟いているのが耳に入った。
そして、その数十秒後。いつもと全く同じようにやって来た電車が停車して、いつも通りに目の前で人を入れ替えようとドアを開く。
当然、それに合わせて進藤は歩き始めた。もちろんあたしもその電車に乗って帰ろうと、人の流れに乗りながら足を踏み出そうと…したんだけど。
「……」
でも何故か、何と無く罪悪感のようなものにあたしは急にかられたりする。
本当に、あたしは帰ってしまっていいのだろうか。本当にコースケは来れないのだろうか。でももしかしたらそろそろ来るのかもしれないし…それなのにコースケを置いていってしまっても、本当にいいのだろうか。
「乗らないの?」
進藤の声がした。その声に俯き加減だった顔を上げると、ドアの前で振り返った進藤と目が合った。それでもあたしは、「うん…」と答えながらも、そこから足を動かせないでいる。
そんなあたしがグズグズしているうちに、ドアの閉まる警告音が鳴り始める。
ドアが閉まりますーーと、アナウンスが聞こえてくる。
するとあたしはグッと腕を引かれてーー
「もう帰ってると思ってるよ、アイツ」
バタンと、あたしの背後でドアが閉まった。
「残る意味が分からない」
そう言う進藤は、なんだか面倒臭そうにしながら、本気で意味が分からないといった様子であたしを見下ろしている。ーーそして、
「やっぱバカだよね」
なんて、ドアを背にしたあたしとやけに近い距離で、またもその言葉を口にした。バカにした。最後まで、バカにされた。