優しくないっ、優しさを感じない!
なんて、流れを変えようとあたしが尋ねると、コースケは「あ、うん、実はもうヤバイ」と、笑いながら申し訳なさそうにする。
「ほんとごめんな、マジで。マジで今度奢るから、クロワッサンドーナッツ」
「あははっ、選択肢無しか!どこまで食べたいんだクロワッサンドーナッツ!」
そして、丸く収まったのを見計らって、「じゃあまたねー頑張ってー」と、あたしはコースケを送り出し、コースケは来た時同様駆け足で部活へと向かっていった。
野球部は厳しいって聞くから遅刻なんてしたら大変な事になるだろうに…それなのにわざわざ時間をさいてくれてほんと申し訳ないなと思ったけど、でもそれ以上にあたしはすごく嬉しかった。だってあたしの事覚えててくれて、メールだけじゃなくてちゃんと会って言ってくれた!
…まぁでも、ほんとはバレないのが一番だったんだけどね。
「…あーあ!クロワッサンドーナッツ食べたくなっちゃったー!」
なんだか浮き立つ気持ちから大きな独り言を堂々と呟いたあたしは、またいつものように教室へと戻っていく。さて!今日も見学だけさせてもらおう!
***
「結構人居なくなっちゃったなー」
下駄箱を確認してあたしは一人呟いた。テンションが上がっていた事もあって、今日はいつもより少し長く練習を眺めていたらしい。
別に予定がある訳でも無いけど、遅くなったんだと思うと早く帰らなきゃ!なんていう気持ちに掻き立てられて、あたしは足早に昇降口を出る。
出てすぐ正面には校門がある。グラウンドは昇降口の出て左隣の中庭を通ったその奥で、中庭を挟んだ向こう側には校舎と体育館がある。そしてその逆、昇降口を出て右側の方に行くと、そっちは焼却炉やらがある校舎裏に繋がっていた。
…うん。まぁだとしても何の部活にも入っていないあたしには、どれも関わり合いがすごく薄いものなんだけど。
だから今日も何事もなく真っ直ぐに校門へと向かって行き、そこで学校の敷地内とさよならをするはずだった。