優しくないっ、優しさを感じない!


好きな人が出来たって認めたら、迷惑掛けないためにコースケじゃないよって言うしか無い。

違うよ、好きな人出来てないよ。なんて訂正したら、それこそあたしは正面からコースケへの気持ちを否定する事になる。

そんなの嫌だ。あたしはまだ好きな気持ちを否定したくない。もしこの先ずっと結果は同じだとしても…どれだけ無駄でも、それでもまだ、あたしは想っていたいんだ。だってあたしだけが持ってる気持ち。温かくて切なくて、キラキラして重たくて…


「こんなの、簡単に捨てられないよ」


そうだよ、大事なんだから捨てられない。コースケが好きだっていうこの気持ち。こんなに素敵なもの、どうやったら捨てられるっていうんだ。


「だからあたしは、認めも訂正もしないんだ。それで間違ってない。その辛さの方が…言えない心苦しさの方が、何倍もマシだもん。無駄な片想いの方が。だからあたしはこれで良かったんだ。…そう、これで良かったんだね」

「……」


ーーそれからまた、暫しの沈黙が続いた。


あたしは結局逃げた。好きな人がコースケだなんて言って迷惑かける訳にもいかないし、だからって他に好きな人が出来たなんていう嘘はつけなくて、勘違いしてる事に対しての訂正も出来なくて、でもこんな気持ちを捨てる事も出来なくて。だからその決断をしなきゃいけない状況からあたしは逃げた。だから何もしないで想い続けられる道を選んだ。

それはすごく卑怯な“逃げる”以外の何ものでもない。それをあたしは認めたくは無かったけど…でもなんだか、今になって急にごちゃごちゃしてた状況がハッキリしたというか、全て吐き出してスッキリしたというか、口に出したら丸く収まったように思えた。ちゃんと解決したような。

そしたら今度は気持ちの良い脱力感がやってきて…沈黙の間、あたしはそれに身を任せていた。


…進藤は、どう思ったんだろう。あたしの話を聞いて進藤は今、何を考えているんだろう。


「…進藤?」

「ん?」

「あの…何か言ってよ」

「……」

「進藤さん?」

「……とりあえず……何があったのか、よく分かってないんだけど」


< 91 / 310 >

この作品をシェア

pagetop