マルカポーネの心配事

男は頻繁に来るようになり
三回に一回は泊まるようになった。

「この犬よー俺が来る時だけ、どっかに預けない?」
以心伝心。
俺が嫌いなこの男は
俺のことも大嫌い。

来るたびに唸って隙あらば噛みつきたい。
狂犬病のワクチン受けなきゃよかった。どんな病気でもいいから移したい!

「ダメー。マルちゃんは家族だもん」
サービス残業を終え
疲れてるのに男に酒のつまみを作り、いそいそとその後の食事の用意をする由紀。

「亮さんもマルちゃんも、両方大切」
エプロン姿でビールを取り出し、男のグラスに注ぐ由紀。

男はビール党。
ビール代だけでけっこうかかるかも。
それもこいつ
家に来るとき常に手ぶら。

「これ美味しいじゃん。由紀はいい奥さんになるだろうな」
調子のよい言葉に浮かれる由紀。

俺が何を言ってもムダなんだろ。
恋する乙女だから。

「ねぇ亮さん。今度映画行かない?」
一生懸命、男の横で由紀が言う。

「あぁ?めんどくせーな。映画なんていっつも観てるし。仕事以外でカンベンしてくれよ」
ビールを飲みながらテレビの野球に夢中。

カンベンって
テメーは映画が好きだから仕事にしてんだろ、彼女を好きな映画に連れてって、楽しませようともしないのか?

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