マルカポーネの心配事
「よくテレビとか映画であるだろー。女子銀行員の横領事件って、それって簡単?どーやんの?」

「え?知らないよ。そんなん考えた事ないもん」

「お前ならデキんじゃね?」
ゴロンと横になっていた男が急に起き上がり、目を輝かせる。

「真面目な女子行員が、大胆不敵に横領」
男は由紀にすがった目をするけど、由紀は苦笑いで台所に立つ。

「そんな簡単じゃないよ。現実は厳しいの」

「いや!お前ならできる」

「亮……冗談でもそんなの嫌い」
そう軽く言った由紀の言葉に、男はカッとなったのかテーブルを蹴り上げる。

小さな黄色いテーブルが俺のゲージ目がけて突っ込んできた!

ぐえっ!
テメー何すんだ!

「マルちゃん!」
由紀は手に食器用洗剤の泡を付けたまま、目を大きく開いて俺の元へ一直線に駆け寄った。

「マルちゃん大丈夫?ケガしなかった?」

おぉ
ケガはしなかった
ちょっと……シートにもよおしたけど。

由紀!
早くゲージ開けろ!
その男にガリガリとかじりついてやる。

由紀がゲージに手をかけると、男は由紀の泡の付いた手を捕え、自分の胸に入れ込んだ。

「やめて亮」

「そんなバカ犬は放っておけ」

バカだと?
バカにバカって言われるほどムカつくもんはないよな。

おらおら!
はよゲージ開けやがれ!
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