マルカポーネの心配事
じたばたする由紀を力づくで男は抱き、耳元で息を吹きかける。

身体をよじり身悶える由紀。
耳は由紀の弱点。
俺と一緒。

「冗談だって……」

「離して」

「冗談も通じないのか?いいお嫁さんになれないぞ」

お・よ・め・さ・ん……お嫁さん。
【おもてなし】より敏感な言葉。

「由紀は料理が上手で可愛くて、最高にいい女。ウエディングドレスが似合うだろうな」

そう言われ
遠い目をしてうっとりする由紀。

「白無垢の方が似合うかな。新婚旅行はどこがいい?」

「ハワイ」

「定番すぎて面白くない答だけど、由紀らしくて可愛い」
テーブルを蹴り上げた男とは思えないほど、優しくだらしない声を出す。

また丸め込まれるのか?

「くぃーん」と俺は溜め息をすると

「マルちゃん!」
スイッチが入ったように由紀は男の胸からすり抜け、ゲージを開けて俺を引っ張り身体をチェックする。

「大丈夫だった?ビックリしたね。ごめんね」
俺の顔をジッと見てから頬ずりをし、しっかり抱きしめる。

由紀
お前やっぱり
いい女だぜ。

「亮。もうこんな事はしないで。私に何を言ってもいいけど、マルちゃんにだけは……」

「うぜー」

男はそう言って舌打ちをし、由紀の財布を探して一万円を引き抜いた。

「おもしくねーパチンコ行く」

荒々しく言い
男は部屋を出て行った。
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