マルカポーネの心配事
次の土曜日はいい天気だった。
「マルちゃん。思いっきり走っていいからね。いつも狭い部屋でごめんね」
真っ赤になった目で俺に言う由紀。
昨日の夜は、男の歯ブラシやら洗顔やら、捨てられた男の気配を全てゴミ袋に入れ、泣いて寝たけど気分はスッキリしただろう。
春の青空の下
広い広い緑の芝生の敷地。
由紀はベンチに腰をかけ、俺を見守る。
「わんっ」
俺は久しぶりの芝生を肉球で味わいながら、風を感じる。
「マルカポーネ様よ」
「今日はいらしてたのね」
「トリミングに行く前かしら?巻き毛が長くて輝いてますわ」
女たちの声が聞こえる。
全力疾走を終え
立ち止まっていると
3匹の女たちに囲まれる。
やれやれ
一回走っただけなのに
もう捕まった?
メスの嗅覚は鋭いね。
ふっと笑うとそれが合図のように
女たちが俺にじゃれつき、4匹で絡み合う。
「あーマルちゃん。ダメよー」
帽子を押さえて立ち上がろうとする由紀を、隣に座ったおばさんが「いつものじゃれあいよ」って笑ってた。
じゃれあい
そうだな。確かに。
「ああんマル様」
「いやん。そんなとこ噛んじゃ」
「私も舐めてぇ」
メスたちの声に、周りのオス犬たちの嫉妬の羨望。
仕方ないだろ
俺が誘ってるわけじゃないんだから。