これが、あたしの彼氏です。【完】
「遅ぇ」
「え、あ、ごめん」
家を出ると、家から少し離れたところで矢沢君が腕を組んで待っていた。
矢沢君がこっちへ向かって来ると不意に上から下まで見下ろすような視線であたしを見つめてくる。
「矢沢君?」
「お前、今日すげぇ張り切ってんな」
「えっ!?あ、違うよ!これはお母さんが勝手に…!」
「ふーん」
ニヤリと憎たらしく笑った矢沢君は、「まあ、良いんじゃねーの」なんて小声で言いながらあたしの前をスタスタと先に歩いて行ってしまった。
「あ、ちょっとまって!」
やっぱり浴衣を着て来たのは失敗だったかもしれないなんて思いつつ、あたしは歩きづらい浴衣に苦戦しながらもなんとか矢沢君の後を追った。
その後、矢沢君と一緒に夏祭りの場所へと到着すると、見渡す限りの人の量でほんの少しだけ嫌気が差してしまった。
「凄い人の量だね」
「ああ、初日だしな。それに、花火大会もあるから無理もねぇよ」
「あ。そっか。花火大会…」
「あぁ。どうせだから見て帰ろうぜ」
「あ、うん!」
内心、花火大会は見て帰りたいと思っていたところだったから少しだけ気分が上昇する。