これが、あたしの彼氏です。【完】
最後の花火が一番の輝きを持って激しく打ちあがると、周りも凄い大きな歓声をあげた。そんな奇麗過ぎる花火を見て、あたしも自然と口角がふわりと持ち上がる。
最後の花火をこの目にじっと焼き付けると、感動的だった久し振りの花火大会はゆっくりと幕を閉じて行った。
「終わっちゃった」
「ああ、人が溢れかえる前に帰るぞ」
「あ、うん。そうだね」
そう言ってその場に立ち上がった矢沢君はあたしの前をスタスタと先に歩いて行ってしまう。
「ちょ、ちょっと待って」
前を歩く矢沢君に何とか追いつくと、低い声で「早くしろ」と急かされた。
「矢沢君、そんなに急がなくても良いと思うよ?」
「あ?」
「え、何?」
あたしがそう言って首をかしげると、目の前の矢沢君は何故か眉間にギュッと皺を寄せる。
「お前、人混み苦手なんじゃねぇのか」
「え?」
「また気持ち悪くなられたら、こっちが困るんだよ」
「………」
矢沢君は小さい声でそう言うと、すぐにパッとあたしから視線を逸らし、素っ気なく「行くぞ」とそれだけを零すとまた足早に先へと行ってしまった。
「………」
もしかしてこれはあたしの事を心配して言ってくれているのだろうか?なんて思いつつも、あたしはまた置いて行こうとする矢沢君の後を追いかけた。