これが、あたしの彼氏です。【完】


「……うわあ」

その後、矢沢君が放った言葉も虚しく、来た道を戻るともう既に多くの人々が道に溢れ返っていた。そんな状況を見て隣の矢沢君も「チっ」と小さく舌打ちを漏らす。


「やっぱり凄いね、花火大会の後って」

「あぁ、急ぐぞ」

「うん」

ちょっと嫌気が差している矢沢君の言葉に大人しく了承して、あたしは浴衣のせいで歩きづらいながらも必死に矢沢君の後ろに付いて行った。
なだれ込む人混みに巻き込まれて矢沢君と逸れてしまわないように、そっと矢沢君の服の裾を遠慮がちに掴むと、矢沢君は不意に肩をピクリと動かした。


「……あ、矢沢君。ちょっ、待っ」

気持ち悪いくらいに溢れかえる人混みの所為で掴んでいた矢沢君の服の裾から一瞬手が離れそうになった、その時、

「――――ぅ、わっ」

いきなり後ろから来た人に思いっきり体をドンっと押され、あたしは呆気なくもその場にドテンと転んでしまった。

「い、いったたた……」
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