これが、あたしの彼氏です。【完】
「何やってんだ、お前は」
あたしが弱弱しい声を上げると、矢沢君はすかさずこっちに振り向いてくれてズカズカとあたしの方へ向かって来てくれた。
「……ご、ごめんなさい」
「別に。大丈夫か」
「あ、…うん」
矢沢君があたしの前にスッとしゃがみ込むと、「立てるか」と優しい声でそれだけあたしに問いかけて来る。
「……多分大丈夫。擦りむいただけだから」
「そうか」
「うん」
路上でしゃがみ込んで話しているあたし達に、周りの人達は邪魔だとでも言うようにじっとりとした嫌な視線をこっちへ向けて来る。
「ほら、行くぞ」
矢沢君は素っ気なくそう言うと、不意にあたしの方へ右手をそっと差し出して来た。
「……え、」
「また転ばれでもしたら困るんだよ」
「わ、……分かった」
小さくそう言い放った矢沢君の言葉にあたしは少し戸惑いながらも、目の前に差し出された右手を遠慮がちにそっと握った。