これが、あたしの彼氏です。【完】
ゆっくりと握った矢沢君の手は当然のように大きくて、物凄く温かかった。
あたしの手を引いて歩く矢沢君はさっき転んだあたしの足を気にしてくれているのか、さっきよりも大分ゆっくりとしたペースで前を歩いてくれた。
そんなぶっきら棒な矢沢君にほんの少しだけ、さり気無い優しさを感じる。
あたしが逸れないようにもう一回矢沢君の手を握り返すと、前を歩く矢沢君もあたしの手を強く握り返してくれた。
そんなさり気無い行動に、あたしはついドクンと心臓が跳ね上がってしまう。
「…矢沢君、ありがとう」
「あ?あぁ、別に」
あたしが聞こえるか聞こえないかくらいの声でお礼を言うと、矢沢君は少し間を置きながらも素っ気なく返事を返して来て、そんな矢沢君の不器用さにあたしは少しだけ笑みが零れた。
その後、何とか無事溢れ返っていた人混みを抜けると、最初に通って来た屋台たちがチラホラと見えてくる。
繋がれた手はまだしっかりと握られたままで、その手を解く事も出来ずにトボトボとした歩調のまま夏祭りの道を歩いた。
「そろそろ帰るか」
「うん。そうだね」
「家まで送る」
「えっ!?いや、いいよ。悪いし…」
「無理だ。今何時だと思ってんだ。小さい事言ってないでさっさと帰るぞ」
「…わ、分かった」
眉間にギュッと皺を寄せた矢沢君にあたしはそれ以降何も反論出来ないままコクンと静かに頷くと、矢沢君は満足したかのような表情を浮かべた。