これが、あたしの彼氏です。【完】
あたしはポカンと口を開いたまま、目を瞬きするのも忘れていた。
―――このタイミングで矢沢君が現れるのは、正直どうかと思う。
間抜けな顔をして固まっているあたしに矢沢君は眉間に少し皺を寄せながら、低い声で「行くぞ」とそれだけ言い放って来た。
当のあたしは当然行かないなんて出来るわけがなく、恐る恐る矢沢君のところへと足を進めた。
……本音を言うと、今日は矢沢君に一切関わりたくなかった。
その後、今日も屋上かななんて思いながらスタスタと前を歩く矢沢君の後ろをトボトボとした歩調で付いて行った。
すると、何故か矢沢君と一緒に行動していると今まで向けられていた冷たい視線が、一気にサラリと無くなった。
一瞬、あれ?と思ったけれど、それもすぐこの矢沢君と一緒に居るおかげだと気付いた。周りの生徒が矢沢君を見るなりその場を離れたりパッと視線を逸らしたりしているのが何よりの証拠だ。
矢沢君は想像以上に好意や憧れを寄せられているけれど、それと同時に不安や恐怖もたくさん抱かれているみたいだ。