これが、あたしの彼氏です。【完】
―――その後、時間を掛けて校門前へ辿り着くと、
「……あれ?心ちゃん…?」
不意に聞き覚えのある声が、あたしの耳にふわりと響いた。
「………え、」
「うわ、ちょ、傷だらけじゃないか…!どうしたのっ?」
「………。……く、久瀬センパ…」
名前を呼ばれて振り返った瞬間、目の前にはあの大好きな久瀬先輩が立っていた。あたしはそんな状況につい言葉が詰まってしまって、何て答えれば良いのか分からなくなってしまう。
「……心ちゃん?」
「…………」
あたしの名前を呼んで、心配した目であたしを見下ろす大好きな先輩。
「………っ」
奇跡だなんてそんな事を思ってる余裕もなく、あたしはまた涙腺が緩んでしまった。
「………うっ」
「うわ、泣かないで。ほら、これで涙拭いて?」
「うっ、あ、ありがとございます…」
それでもさっきより止まりそうにない涙を何度も拭って、あたしは先輩のハンカチを涙でぐしょぐしょにしてしまった。
「どうしたの?……見るからに尋常じゃなさそうだけど。もし俺で良ければ…、」
「……いえ、…大丈夫です。何でもありませんから…」
「……でも、」
「大丈夫です」
あたしがハッキリとそう言うと、久瀬先輩は一瞬困ったような顔をした。こんなことに、久瀬先輩まで巻き込むわけにはいかない。
「そっか…。あまり問い詰めるのも良くないよね。じゃあ、これから少し俺に付いて来てくれないかな」
「え……?」
「この近くに俺がいつもお世話になっている小さな病院があるんだ。…そこで、手当てだけでもさせてよ。俺もこのまま帰らすのは心配だし…、心ちゃんもこのままじゃ帰れないだろう?」
「…っ、はい、」
優しくそう言ってくれた先輩にあたしは少し戸惑ったけれど、せっかくの久瀬先輩の好意を無下にすることも出来ず、あたしは小さく首を縦に振った。