これが、あたしの彼氏です。【完】


「あ、そうだ。あたし用事あったんだ!だから先に帰るね…っ」

このままじゃ絶対にボロが出てしまうと思い、この場からさっさと逃げようとすると、いきなり右腕を強い力でグッと掴まれた。

「おい、待てって」

「―――――痛…っ」

けれど、掴まれた場所がいけなかった。それと同時に出してはいけない声が漏れてしまう。

「……あ?」

「あ、いや…その…」

あたしのそんな反応一つさえ見逃さなかった矢沢君は、いきなり掴んだ右腕の裾をパッとめくりあげた。

「ちょ…っ、やめ」

「……何だよこれ」

「………っ」

―――見られてしまった。あの日ギャル女に痛めつけられて、未だそこだけ完治していない、包帯グルグル巻きの右腕を矢沢君に見られてしまった。

「……な、何でも、ないよ…」

「あ?何でもない事ねぇだろ。これどうした」

「だから、何でもないってっ」

「何でもなかったら、俺にも言えるはずだろ?」

「……っ」

もう、最悪だ。矢沢君に当たり散らして包帯を巻いた腕だって見られて。どうしたらいいのか分からない。

「もうしつこい…っ、何でもないって言ってるじゃないっ」

「あ?」

「泣いてなんかないし、この傷だって……っ」

「嘘つくな」

「………っ」

「……俺に嘘つく余裕があるなら、本当の事言ってみろ」

矢沢君の目があまりにも真っ直ぐで、あたしはそれに一瞬、言い掛けていた言葉を完全に見失ってしまった。
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