これが、あたしの彼氏です。【完】
矢沢君はそんなギャル女からフイっと視線を外すと、あたしの前に来てゆっくりと腰を下ろした。
「………心」
「………っ」
矢沢君に優しい声で名前を呼ばれ、何故か不意に涙腺が緩んだ。
すると矢沢君はいきなり、あたしの肌蹴たままだったカッターシャツにそっと手を伸ばして、チカラ抜けしたあたしの変わりにカッターシャツのボタンを全部奇麗に止めてくれた。
「……行くぞ」
「う、うんっ」
小さな声でそう言った矢沢君にあたしも返事をして、前を歩く矢沢君と一緒に災難だったこの女子トイレを後にした。
「………」
「………」
あたしの手をギュッと握って前を歩く矢沢君の手は、自分の冷たい手なんかより凄く凄く、温かかった。