これが、あたしの彼氏です。【完】
その後、「お前は寝てろ」と矢沢君にそう言われ、あたしは不意に腰を上げた矢沢君に「何処か行くの…?」と問いかけると、矢沢君は小さな声で「……台所」とそれだけ呟いた。
「え。な、何で?」
「いちいち聞くな」
「え。だって……」
「お前、昼飯食ってねぇんだろ」
「え。あ…、うん…」
「だから、台所」
「え。や、矢沢君が作ってくれるの?矢沢君、料理出来るの……?」
「うるせぇな。出来なかったらいちいち作らねぇよ」
「………あ、あたし、お粥が良いなー」
「…黙れ」
矢沢君は最後にそれだけ素っ気なく吐き捨てると、スタスタとこの部屋を後にして行ってしまった。
「………何だか意外」
そんな事を少し思いながらも、あたしはお昼ご飯を作りに行ってくれた矢沢君にちょこっとだけ感謝した。
その数十分後、矢沢君が階段をトントンと上がって来る足跡がかすかに聞こえて来て、そのままガチャリと戸が開くとトレイに小さな鍋と小皿を乗せた矢沢君が、あたしのところへゆっくりと戻ってきた。