これが、あたしの彼氏です。【完】
「どうした」
「あ、いや……、矢沢君もそんな風に笑えるんだなーと思って…」
「…………」
あたしがそう言うと、矢沢君は不意にギュッと眉間に皺を寄せる。
「あ、いや、ごめん!悪い意味はなくて、その」
「…いちいち口に出すんじゃねぇよ」
「あ、ごめんなさい」
「別に、謝れとは言ってねぇ」
そう零した矢沢君の耳が何処となく赤い気がして、あたしはそっと見ないふりをして目を逸らした。
その後、何故か何とも言えない空気がこの部屋一帯に広まった。
「…あ、あのえっと。ごちそうさま」
あたしはそんな空間に堪えられなくなって、小さな声でそれだけ話掛ける。
「あ?ああ。もう腹いっぱいなったのか」
「あ、うん多分。やっぱり熱の所為でいつもみたいには食べられないみたい」
「ああ、そりゃそうだろうな」
「うん、ごめんね、残りもちゃんと食べるから」
「別に、無理して食べなくても良い」
「いや食べるよ。矢沢君がせっかく作ってくれたんだし」
あたしが正直にそう言うと、矢沢君はいきなりその場にスッと立ち上がり、「下げて来る」とそれだけ言い残すと、そのままお粥を持って一階へと降りて行った。