これが、あたしの彼氏です。【完】


そんな事を考えながら、あたしは矢沢君のお昼と自分の分の弁当を手に抱えて、足早に購買を後にした。

そのまま全力疾走で購買の角をグルリと曲がり、階段を駆け上がろうとした、その時――――、



「――――うわっ、」

「…えっ、うぉ…っ」


―――――いきなりドンっと言う鈍い効果音と共に、誰かと正面衝突してしまった。


「す、すすすすすみません…っ」

「いっててて。いや。君の方こそ大丈夫?」

「あ。いや、あたしは………」


「全然大丈夫です。」と言おうとして、そのまま顔を上げたのがいけなかった。これでもかという程に目が見開いて、まるで夢でも見てるんじゃないかと自分の目を疑った。


「………え、あ……うぉ…」

「え。どうしたの?どっか痛めた?」

「いえ…。そうじゃなく…て」

「え?」

「…………」

想定外だった。むしろ奇跡に近い正面衝突だと思った。


「ごめんね?君ボーっとしてるけど、もしかして頭打っちゃった?」

「い、いえ。平気です。…全然大丈夫です」

「そっかそっか。良かった」

「…………」

これは、本当に現実なのだろうか。さっきの衝突した勢いで気絶した夢の中ではないのだろうか。

だって、だって。今あたしの目の前に居るこの彼は、あたしが数か月前から片想いをしている、―――――――――久瀬先輩だったからだ。


有り得ない事に動揺が隠せず胸がドクンドクンと大きく跳ね上がるばかりで、ついつい目の前に居る久瀬先輩にじっと見入ってしまった。
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