これが、あたしの彼氏です。【完】


「…あ、でもうさぎが良い」

「は?」

「リンゴ、うさぎ型にしてほしい」

「…………」

「……お願いします」

「風邪だからって何でもしてやると思ったら大間違いだぞ」

「え。でも久し振りにうさぎ型のリンゴが…」


「……チっ、どうなっても知らねぇからな」

「あ、ありがとうっ」

あたしが笑顔で御礼を述べると、矢沢君はもう一度小さな舌打ちを零して、真っ赤なリンゴと一緒に一階へ繋がる階段をトントンと降りて行った。


それからの数分後、矢沢君が戻ってくるのを楽しみにしていると、不意にガチャリと部屋の扉が開いた。

「出来たぞ」

「ホントっ?見せて」

「……チっ、ほら」

「あたし、本当に久し振りなの。リンゴ型のうさぎ、って……」

「……どうした」

「……いびつだね」

「……文句があんなら食うんじゃねぇよ」

「わっ、ご、ごめんなさい!ちゃんと食べるから」

不機嫌そうにそう言ってわざと皿を上へと掲げる矢沢君に、あたしは精一杯手を伸ばした。

「……矢沢君、ありがとう」

「ああ。旨いか」

「うん。矢沢君もどうぞ」

「いや、俺は良い」
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