これが、あたしの彼氏です。【完】
「……な、何?」
「いや。お前、さっきより元気ねぇなと思って」
「…えっ、いや、そんな事ないよ…!?ほら、もう遅いし帰った方が良いんじゃない?……あたしのお母さんも、今日は早く帰って来ると思うし……」
「…ああ、そうだな」
矢沢君はそれだけ吐き捨てると、不意にその場に立ち上がってテキパキと帰る準備をし始めた。
「じゃあ、またな」
「…うん」
その後、矢沢君を玄関まで見送ってあたしはそっと小さな笑みを零した。
「早く治せよ」
「……っ」
するといきなりそんな言葉を掛けられて、あたしが俯いていた顔を上げると矢沢君は不意にポンポンとあたしの頭を軽く撫でて来た。
あたしはそんな矢沢君の行動に、体が一瞬ドキリと反応する。
「じゃあな」
矢沢君は最後にそれだけ吐き捨てると、ガチャリと玄関の扉を開けてスタスタと家へ帰って行ってしまった。
あたしはその後、玄関のカギをしっかりと閉めてトボトボとした歩調で自分の部屋へ向かうと、すぐさまベッドにダイブした。
「……………」
ついさっきの事が、頭をグルグルと駆け巡る。
「………矢沢君…」
矢沢君がさっき寝言で零していた知らない女の人の名前が、全く頭から離れて行こうとしない。
―――――「絢」って、誰なんだろうか。それを考える度にあたしの心臓はズキズキと悲鳴を上げていた―――――