これが、あたしの彼氏です。【完】
電車に乗車すると丁度席が二人分空いていて、矢沢君がそこにストンと腰掛けると、不意にポンポンと自分の隣の座席を叩くもんだから、あたしも矢沢君の隣にそっと腰を下ろした。
「……やっぱ毎日学校行ってると疲れる」
「え?そう…?学校くらいで大袈裟だよ」
「うるせぇな。俺寝るから、お前が降りる手前で起こせ」
「え、あ、寝ちゃうの…?うん。分かった」
「……それまで起こすんじゃねぇぞ」
「……うん」
矢沢君は低い声でそれだけ吐き捨てるとそのままゆっくりと目を瞑り、すやすやと夢の中へと落ちて行ってしまった。
「…………」
あたしはそんな矢沢君の顔をじっと見つめて、キュッと口を閉じる。
(…相変わらず、寝顔だけは可愛いな)
心の中で不意にそう思っていると、一瞬思考がピタリと停止してしまった。
―――"相変わらず"と、そう言ってしまう原点をつい思い出してしまって、あたしはちょっぴり後悔する。
矢沢君の寝顔を見ていると、またしてもあの日の寝言がフラッシュバックした。