これが、あたしの彼氏です。【完】
その後、先輩は正面衝突してしまった時にあたしが落としたパンを「はい」と優しく微笑んで全て拾ってくれた。
「あ、ありがとうございます」
「ううん。じゃあ、気を付けてね。ホントごめんね」
「あ。いや…!あたしの方こそ…!」
あたしがそう言うと、久瀬先輩は優しく笑ってそのままあたしの横を通り過ぎて行ってしまった。
久瀬先輩の後ろ姿をポーっと見えなくなるまで見つめていると、不意に手元にあるパンの存在に気が付き、ハッとした。
「あっ、ヤバ…!屋上…!」
屋上で待っているであろう矢沢君の存在をすっかり忘れていたあたしは、さっきまでの幸せを一旦胸の内に押し込めて、また足早に屋上を目指した。ダッシュで階段を駆け上がり、バンっと勢い良く屋上の扉を開ける。
「……遅ぇ。何してた」
「…ご、ごめんなさい」
すると、扉を開けるなりドスのきいた声が耳に響く。
「ちゃんと、買って来たんだろうな?」
「あ、うん…。えっと、これ」
「ふーん。さんきゅ」
「…うん、お口に合うか、分からないけど…」
「ああ。別にこれで良い。嫌いなものあんまねぇし。甘いのとか好きだし」
「…あ、そうなんだ」
これは予想外だ。矢沢君のイメージ的にメロンパンとか甘いものは絶対に嫌だろうなとか思いながら買ったのに。適当とか言って買ったけれど本当は半分嫌がらせのつもりで買ったのに大失敗だ。