これが、あたしの彼氏です。【完】
胸が少し痛くなって、矢沢君の寝顔が直視出来なくなる。
あたしはそんな矢沢君からパっと視線を逸らすと、今の思考を出来るだけ遠くへ追いやった。
「………」
けれど、忘れようとするもっと思考は深くなり物凄く胸がモヤモヤとした。
また矢沢君が「絢」って人の名前を呼んだらどうしようだとか、そんな事をついつい考えてしまって、やっぱり起きてくれないかなとか色んな事が頭を駆け巡り、胸がドクドクとハイスピードで跳ね上がった。
一体、誰なんだろうか。
何であの時、矢沢君の口から「絢」なんて名前が出たんだろうか。
何度も何度も同じことを考えては胸が痛くなるの繰り返しで、そんな自分に嫌気が差してくる。
「…………はあ、」
やっぱり、思い切って聞いた方がこんな風にモヤモヤしたりする事だって無くなるに決まっている。
胸の奥底でそう思い、あたしはもう一度チラリと矢沢君の寝顔を見つめた。
「………矢沢君、」
あたしがそっと矢沢君の名前を呼ぶと、不意に少しだけ矢沢君の眉がピクリと動く。
―――「絢」って人の正体が、どうしようもなく知りたくて知りたくて仕方が無い。