これが、あたしの彼氏です。【完】
「心」
「えっ、はい…」
下の名前で呼んでいいなんて一言も言ってないのに、矢沢君は毎回あたしのことを下の名前で呼ぶ。
「金、全部で何円掛かった」
「…え。えっとー…、510円?」
この際だから、あたしのミルクティー代も矢沢君の昼食代に含んでやった。さすがに金額が合わないことに気付くかなあと内心ビクビクしていたけれど、矢沢君は呆気なく「ふーん。今10円ねぇから、また今度な」と言いながら何も疑うことはなく自分の長財布から500円玉を差し出して来た。
矢沢君ってもしかしたら馬鹿なのかもしれない。
あたしは自分の弁当箱をパカッと開けて、お母さんが作ってくれたお弁当を味わいながら口に運んだ。目の前の矢沢君も余程お腹が空いていたのか、嫌がらせで買って来たメロンパンをガツガツと美味しそうに食べていた。
黙々とお弁当を食べ進めているうちに、つい先程の出来事が頭の中にホワンと浮かぶ。ミラクル且つ幸せな出来事に、嫌でも顔がニヤリと緩んでしまう。
(久瀬先輩、ホントに格好良かったなあ)
紳士的で優しいし笑顔も眩しいし何だかオーラまでキラキラしているし、まさに男の鏡だと言える。目の前の矢沢君とは比べるのも失礼なほど大いに違う。