これが、あたしの彼氏です。【完】
「…………」
クラス全体が目の前の彼に驚いて恐れて、一気にクラスの雰囲気がシーンと静まり返る。けれど、そんなの全く眼中にないらしい不良少年は、迷わずズカズカと足を進めて教室に入って来た。
「………」
そして。一瞬も束の間。
「え。あの……」
恐ろしい不良少年が、なんの為なのか、いきなりあたしの目の前で足をピタリと止めた。
「………」
「………」
当然の如く流れる沈黙。グッと力を込めた両拳にじわりと汗が染みた。
(………え。何。怖い!凄く怖い…!どうしてこの人あたしの目の前で止まってるの!?)
バチリと重なってしまった目も逸らせず、冷や汗が額を流れる中、胸の中はパニック状態を起こしていた。
「――――おい、」
「は、はい…!」
いきなり目の前の不良少年に声を掛けられ、あたしはビクリと背筋を震わせると同時に、恐怖と焦りの所為で思わず声が裏返ってしまった。
「…お前。東雲 心(シノノメ ココロ)だろ?」
「えっ?…えっと。そう、ですけど…」
「ちょっと面貸せ」
「えっ!?」
「付いて来い」
「………」
…あたし、この不良に何かしたっけ、とこれまでの学校生活での自分の行いを全て振り返ってみたが、この不良にいきなり面貸せだなんて言われる理由が一つも見つからない。
(どうしよう、凄く怖い)
心臓がバクバクと高鳴り、恐怖のあまり息の仕方さえ忘れそうなこの状況にどうしたらいいか分からず、椅子から一歩も動けずにいた。
「いいからこいよ」
ドスのきいたその声に震えあがったあたしは、ここで行かないと後でもっと恐ろしい事が待っているかもしれないという予測に辿り着き、恐る恐る重い腰を上げた。