これが、あたしの彼氏です。【完】
「……矢沢君…?」
「あ?」
恐る恐る声を掛けると、いつもの低い声が返って来る。良かった、人違いじゃなかったなんて思っていると、矢沢君がゆっくりとこちらに振り向いた。
「…お前。ギリギリセー、フ……」
「え?」
低い声を出してそう言った矢沢君の言葉が不意に止まって何だろうなんて思っていると、矢沢君はギュッと眉間に深い皺を寄せた。
「……矢沢君?」
「……てめ、一体なんのつもりだ」
「えっ、…何が…?」
「……地味女はやっぱ服も地味一色か。この地味女が」
「………地味じゃないよ。あたし、ほとんどがこんな感じだし…」
「………マジかよ」
「…うん。ファッションとか、あまり興味ないの」
「………地味女」
本当のところ今日の服装は一段と手抜きだ。普段もそこまでファッションセンスがあるわけでもないのだが。
ずっと前にあの友達の由希に、あんたのファッションセンスは直した方が良いよと本気で言われた事もあるくらい、あたしのセンスは非常に悪いらしい。
そんな事を考えつつ、矢沢君にチラリと視線を向けると、
「……お前、来い」
「えっ、…ど、何処に?」
「良いから来い」
「わっ」
何故かいきなり手をグイッと引っ張られて、あたしは無理やり矢沢君の後に付いて行かされる羽目になった。