これが、あたしの彼氏です。【完】
「さっさと行くぞ」
「…うん」
ちょっぴり不機嫌な矢沢君にグイッと腕を引っ張られながらも、あたし達は長蛇の列の最後尾に並んだ。
それにしても意外だった。この矢沢君がこんなところ好きだなんて。あたしも好きな方ではあるけれど、この場合矢沢君みたいな人がこういう場所を好きだということが重要だ。
そんな事ばかりをグルグルと考え込んでいると、あっという間に時間が過ぎてやっとの事受付の前まで辿り着く事が出来た。
「お二人様ですね。どうぞ」
ふわりと微笑む可愛らしい受け付け窓口のスタッフさんにチケットを二枚貰い、あたし達は館内へと足を運んだ。
「矢沢君って、こういうところ好きなんだ」
「あ?あぁ。……水族館だけ」
「へぇー…。…なんか意外だね」
「うるせぇ。馬鹿が」
「…ばっ、馬鹿じゃないよ」
理不尽に馬鹿と言われたことにムッとしていると、不意に矢沢君があたしの名前を呼んだ。
「―――心、」
「え。何?」
「楽しんで帰ろうぜ」
「えっ?あ、うん」
矢沢君にいきなりそう言われ一瞬戸惑ってしまったけれど、よくよく考えてみれば、矢沢君の言ってることも一理あるなと単純にそう思った。
矢沢君とのデートはさておき、こんな水族館なんて滅多に来ないわけだからこの際いっぱい楽しんでもバチは当たらないだろうという結論に至る。しつこいようだが、矢沢君とのデートはさておき。
「…最初は何見るの?」
「あ?ジンベイザメ」
「え。それって一番最初に見るの?」
「ああ」
「……ふーん」
そう言う矢沢君は少し嬉しそうで、あたしたちはメインとなるジンベイザメが泳いでいる大きな水槽の前へと足を向けた。
「……やっぱ良いよな。ジンベイザメ」
「うわー凄い。あたし初めて見た」
「あ?マジかよ。…だせぇ」
「だ、ださくないもん」