これが、あたしの彼氏です。【完】
その後、矢沢君は水槽の中を優雅に泳ぐジンベイザメから、一向に目を離そうとしなかった。相当ジンベイザメに好意を寄せているらしく、喧嘩売ってるの?とでも言いたくなるくらいの形相でただひたすらじっとジンベイザメに視線を送っていた。
それから数分くらいが経った頃、矢沢君がやっとの事ジンベイザメの水槽の前から動き出し、あたしはそんなフリーダムな矢沢君の後ろをひたすら付いて行く。
それからというもの、あたし達は色んな魚を見て回った。熱帯魚、クラゲ、エイ、クリオネ、珍しい種類の魚など。可愛い魚も居ればブサイクな魚も居たり、色んな魚を次々と目で追って行くうちに、あたしの中の楽しさバロメーターもどんどん上昇していった。
そんな中、横に立つ矢沢君がいきなり水槽を指さしたかと思うと、そのままそっと口を開いた。
「あれ、お前にそっくりだな」
「……え?」
急にそんなことを言われて、「何処?」なんて聞き返すと矢沢君は面白可笑しく「アレ」とあたしに似ているらしい生物を教えてくれた。
「……」
矢沢君が指差した先を目で追うと、あたしは嫌でも顔がピクリと引きつった。
「……絶対似てない」
「あぁ?似てんだろうが。」
「し、失礼な」
矢沢君が指差した水槽の中には、岩に上がって甲羅干しをしている大きな亀が堂々と居座っていた。どうやら矢沢君はあの亀とあたしが似ていると言いたいらしい。
「あの亀もお前と同じだな」
「…え?何処が?」
「地味だ」
「…………」
単純にカチンときた。私の頬はさっきからピクピクと引きつりっぱなしである。