これが、あたしの彼氏です。【完】


「次行くぞ」

「え。あれ。亀のコーナー見ないの?」

「…お前のコーナー見て何が面白い」

「……なっ!か、亀じゃないよ…!」

またもやカチンときた一言を言われ、ムッと唇を尖がらせる。本当に、失礼な奴だ。


「おい、置いてくぞ。ペンギン見ねぇのか」

「………ペンギン」

この先がペンギンコーナーということもあって、あたしたちはゆっくりとその場を後にした。そのままだんだんと奥に進むにつれ、人の量も多くなってきたように思える。



「うわっ凄い。可愛い」

「………やっぱ後回しだ」

「……え、」

やっとこさペンギンの水槽の前に辿り着いたかと思えば、矢沢君は見るからに不機嫌そうな顔をして、辺りをグルリと見渡すなり「チっ」と小さな舌打ちを漏らした。

「……お前、此処から見えんのかよ。すげえ人の量だぞ」

「え、あ、うん。多少は…」

「ふーん」

矢沢君は短くそれだけ返すと、何故かいきなりあたしの腕をグイッと引っ張ってきた。

「…な、何!?」

「こっちの方が、よく見える」

「………」

そんな突発過ぎる矢沢君の行動に気を遣ってくれたんだと思い知る。確かに此処からだとあたしの身長でも可愛いペンギンがよく見える。


「もうちょっと身長伸ばせよ」

「こ、これでも160はあるよ、多分」

「へぇ、意外」

矢沢君はそれだけ零すとあたしからフイっと目を逸らして、目の前のペンギンの方にじっと顔を向けた。そんな矢沢君を「変なの」なんて思いながらも、あたしも目の前で可愛らしく動くペンギンに釘付けになった。
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