これが、あたしの彼氏です。【完】
「いってぇっ、誰だよっ、マジ許さねぇ!」
缶ジュースをぶつけられた小柄な男が、キレた口調でそう吐き捨てた。
長身の男も何が起こったのか分からないといった感じ慌てて辺りを見渡した、――――――――その時、
「ああ、命中」
聞き覚えのある低い声があたしの耳に響いた。
「…………!」
――――――――矢沢君。
「……そいつ、俺の連れなんだけど」
そう言い放った口調は大分落ち着いているようだけど、表情はそれと一変して言葉にならないほど凄まじく恐ろしい。
「あー?お前の連れー?だったらこんなとこで女の子を一人にしちゃ危ないだろー?今だってさあ…」
そう言って来た小柄な男が、いきなりあたしの頭をガっと掴んで、あたしの顔をズイっと覗き込んで来た。あたしはそれにビクッと震えて、身体が硬直してしまう。
「ほら。すげぇ泣きそうな顔してんじゃん。あ、もう泣いちゃった?」
「離せ」
「あ?」
「離せって言ってんだ。……気安く触ってんじゃねぇ」
低い声でそう言った矢沢君がズカズカとこっちへやって来て、不意にあたしの頭を掴む男の手を、ガっと勢い良く掴んだ。
「……離せよ。ちょっと痛いんだけど?」
「そうか」
「……いって!…てめぇっわざと腕にチカラ入れやがったな!痛い目合わすぞっコラァ!」
「やりたきゃやれよ。俺はコイツ返して欲しいだけだ」
「あぁ!?」
矢沢君は低い声でそう言うと、もう片方の手であたしの腕をグイッと引っ張った。
「…………!」
――――――あ…。矢沢君に腕を引かれた瞬間、もう大丈夫だという安心感が体を巡って、強張っていた肩の力がちょっとずつ抜けて行くような感覚がした。