これが、あたしの彼氏です。【完】


「矢沢君……っ」

あたしは慌てて、倒れ込んだ矢沢君の元まで駆け寄る。あたしが矢沢君の体を支えると、矢沢君はさっきの一発で口の中が切れてしまったのか、少量の血をペっと吐き出した。

「………っ、」

どうして、さっき避けなかったんだろう。喧嘩は誰にも劣らないくらい強いと、風の噂で聞いた事があるくらいなのに。


「………矢沢君」

「らしくねぇ顔してんじゃねぇよ」

「…だ、だって、」


「あたしの所為で…」って言葉を続けようとしたら、何故か突然長身の男が「えっ!?」と驚いたような大きな声を上げた。


「え。矢沢って…。まさか、矢沢心かよっ!?」

長身の男は一気にサアっと青ざめた顔でそう言うと、今度はいきなり動揺し始めた。

「うわ、やっべ…っ、やべぇのに手ぇ出しちまった…っおい純、行くぞ!コイツ、あの矢沢だよ」

「………。…チっ」

長身の男は慌ててそう言うと、小柄な男の手を無理やり引っ張っり、この場からそそくさと逃げるように立ち去って行ってしまった。
あたしはそんな呆気ない光景にポカーンと口を開けたまま、逃げて行った男たちの背中を見つめていた。



「あ。や、矢沢君…顔大丈夫…?」

「あ?あぁ。こういうのには慣れてる」

「…あ。そうなんだ。良かった…ごめんね」

「あ?」

「だって、あたしの所為で…。助けてくれた上に、怪我までさせちゃって」

「別に。お前の所為だなんて思ってない。全部俺の判断で決めた事だ」

「…………っ、」
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