これが、あたしの彼氏です。【完】
「…矢沢君」
「あ?」
「助けてくれてありがとう」
「あぁ。これからはちゃんと気を付けろ」
「うん。分かった」
あたしが小さな声で頷くと、矢沢君は満足したように小さく笑って、左手に持っていた缶ジュースを一つあたしに手渡して来た。
「お前、気分はもういいのか」
「え?あ…うん。人混みを避けたところに居たら、大分気分が良くなったよ」
「ふーん、そうか」
矢沢君はそう言うと「取り合えず飲んどけ」とあたしにジュースを飲むように勧めた。あたしはそれに素直に頷き、矢沢君が買って来てくれたポカリスエットをゴクゴクと渇いた喉に流し込んだ。
「あ、…あの男達にぶつけた缶ジュースは」
「あ?あぁ、俺の。ついでに買っただけだし、どうでも良い」
「えぇ。勿体ないよ」
「お前の身と比べたら、どうってことない」
「………っ」
矢沢君は、こういう事を平気でサラリと言ってのける。幾ら矢沢君に興味がないからと言って、こういう直球的な言葉を男の子から貰った事が一度もないあたしは、当然のように恥ずかしくなって何て返せばいいのか分からなくなった。
矢沢君はきっと、頭のネジが一つ欠けている。