これが、あたしの彼氏です。【完】
「矢沢君も、家から弁当持ってこれば良いんじゃないかな」
「弁当なんて俺に似合わない」
「………。そ、それはただの矢沢君の自己満足じゃ…」
「――――それに、」
「……?」
「……あのババアが俺の為に何かしてくれるとは思えない」
「え、矢沢く…」
「悪ぃ、こっちの話」
低い声でそう言い放った矢沢君は、何故か少しだけ顔を俯かせて、たった一瞬―――寂しそうな表情を浮かべていた気がした。
「……。」
あたし、もしかしたら何か触れてはいけないところに触れてしまったのだろうか。それに矢沢君が言っていたババアって一体誰の事だろう。……お母さんの事だろうか。
「そろそろ教室戻るか?お前」
「えっ?」
「もうすぐ予鈴鳴る」
「あ、うん、じゃあ戻ろうかな。……矢沢君は午後の授業出ないの?」
「だりぃから出ない」
「そっか。じゃああたし戻るね」
「ああ。放課後、校門前で待ってろ」
「……あ、うん。…分かった」
矢沢君とそれだけ言葉を交わし、あたしは本鈴のチャイムが鳴る前に自分のクラスへと駆け足で向かった。
「……。」
多分、今日の放課後一緒に帰るのをいつもみたいに否定出来なかったのは、矢沢君のあの寂しそうな表情を、一瞬だけでも目に入れてしまったからに違いない。