これが、あたしの彼氏です。【完】
「いえ、大丈夫です。あたし達もさっき着いたところなんで」
ついあたふたとしてしまうあたしに気付いた由希がすぐさまフォローしてくれてニコリと笑う。
「…あぁ。やっぱり君だったんだね」
「えっ」
突然の久瀬先輩の言葉にあたしは驚きの声を漏らす。
「由希ちゃんにお友達の名前聞いた時、もしかしてと思って」
「え、あっ、覚えててくれたんですか…!?」
「うん、もちろん」
「……!」
一瞬、頭の上にポポポポンっとお花が咲いたみたいな感覚に陥る。「記憶力は良いからね」なんて言って笑って見せる久瀬先輩に、あたしの心臓はさっき以上にドクンドクンと高鳴り続け今の気持ちを保つのに精一杯だった。
「………。」
どうしよう、嘘みたいだ。あたしの事を覚えていてくれただなんて。あんな一瞬ぶつかってしまっただけの出来事だというのに。
「…あ、ありがとうございます。凄く嬉しいです」
あたしがペコペコと頭を下げながらそう言うと、久瀬先輩は「ははは」と優しく笑ってくれた。
ああ、なんて笑顔が眩しいんだろう。キラキラしている。先輩の笑顔をこんなに近くで見られるだなんて夢みたいで、心臓が押し潰されてしまいそうだった。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「あ、はい」
久瀬先輩のその言葉を合図に、あたし達は近くのカラオケボックスへと足を進めた。
カラオケボックスに向かっている途中、あたしの隣を歩く由希が「その調子で頑張りなよ」と耳元で小さく背中を押してくれた。