これが、あたしの彼氏です。【完】
その後、カラオケボックスへ到着すると、久瀬先輩の友達が不意にニコリと笑って口を開いた。
「それじゃあ、初対面の心ちゃんにご挨拶しないと」
ニコニコ笑いながらそう言う先輩はその場に立ち上がりスッと手を差し出してきた。
「俺、速水秀斗(ハヤミ シュウト)。こいつの悪友だけどよろしくね」
「…あ。東雲心です。こちらこそ、よろしくお願いします」
あたしが緊張しながらもそう言うと、「うん、可愛いからオッケー」なんて言われてしまって、あたしは一瞬戸惑って返す言葉を見失ってしまった。
「おい、秀斗。そう言う事言うの止めろよ。困ってるだろ」
「えぇ。だってさあ、可愛かったんだもん」
平気でそんな事をスラスラと言ってのける速水先輩は、きっと久瀬先輩とは比べ物にならないくらいのチャラ男だ、とその時確信した。
あたしはそんな速水先輩に苦笑いを浮かべつつも、何でこんな真逆な人と仲良いんだろうなんて失礼な事を思ってしまう。
「じゃあ、あたし一番歌っていいですかー?」
「お、どんどん歌っちゃって」
笑顔でそう言う由希の言葉をスタートに、慣れないカラオケが始まった。
由希が奇麗な声で歌っている最中、速水先輩は相当由希に好意を抱いているのか、近い距離で歌上手いねぇとか、もっと歌ってよとか、ずっと由希を褒め称えていた。そんな速水先輩に、由希も満更でもなさそうな笑顔を向ける。
その後、あたしと久瀬先輩を除いた二人が交互に歌い続けて、そんな二人の歌声を端で聞いていたあたしはひたすらドリンクバーのジュースをゴクゴクと喉に流し込んでいた。
「…あの、あたしジュース汲んで来ます」
「あ。じゃあ俺も行くよ」
「えっ」
飲み干してしまったグラスを手に立ち上がると、不意に横に座っていた久瀬先輩もその場に腰を上げて「汲みにいこっか」と笑顔でそう言ってきた。