これが、あたしの彼氏です。【完】
「ごめんね。アイツ、ちょっと軽々しいとこあるから」
「…あ。いえ、気にしてないんで大丈夫です」
「はは、そっか。うん、それが一番だよ」
久瀬先輩と一緒にジュースを汲みに来ると、久瀬先輩はあたしに優しく話掛けてくれて、キラキラとした笑顔についつい見とれ続けてしまった。
「うわ。ちょ…っ、ジュース漏れてるよっ」
「えっ、うお…っ」
久瀬先輩の言葉にハっとして手元を見ると、注ぎ中だったジュースをコップから大量に溢れさせてしまっていた。
「大丈夫?俺がジュース持って行っててあげるから、手洗っておいで?」
「す、すみません…。ありがとうございます」
良いよ良いよと優しく笑ってくれた久瀬先輩にあたしはペコペコと頭を下げながらも、汚れてしまった手を洗う為に急いで洗面所へと向かった。
「…はあ、」
洗面所に着くなり、小さな溜め息をひとつ吐き捨てて蛇口をキュッとひねる。ジャバジャバと汚れた手を洗いながら、嫌でも持ち上がる口角を必死に抑え込んだ。
やっぱり、久瀬先輩は凄く優しい。外見から醸し出しているオーラが、既に穏やかでふわふわしている。笑顔を向けられる度、心臓がドクンと跳ね上がる。
あのオーラが真黒で素っ気ない矢沢君とは全く持って違う。
「………?」
(……あれ、何で今あたし、矢沢君が出て来たんだ…?)
「……、早く戻ろ」
あたしは小さく呟き、久瀬先輩たちが待っている部屋へと足早に向かった。