これが、あたしの彼氏です。【完】


それからというもの、あたしはもう一曲無理やり歌わされて、もうこのあとは絶対に歌わないと心に誓った。

「あ。そうだ。お前も歌えよー久瀬泰星ー。全然歌ってねえだろ」

速水先輩がマイク片手にそう言うと久瀬先輩は「えぇ」と苦笑いをして、無理やりマイクを持たされていた。

「俺はいいよ」

久瀬先輩が遠慮がちにそう言うと、マイクを返された速水先輩が少し拗ねたような顔をする。

「ちぇー、つまんねぇ奴。一曲くらい歌わねぇと金損だぞ」

「俺の分まで歌って良いよ」

「…俺が、声出なくなるっつーの」

「大丈夫だよ、お前いつもうるさいから」

「はあっ!?」

そんなやり取りを聞いて、つい由希と顔を見合わせながら「ぷっ」と噴き出してしまった。


「久瀬先輩、一曲歌って下さいよ」

目の前に座る由希が笑顔でそう言うと、それに便乗してきた速水先輩も同じように久瀬先輩に歌えと託して来る。


「心だって聞きたいよね?久瀬先輩の歌声」

「えっ」

「ね?」

「……え。えっと、うん。出来る事なら、聞きたいです…」

いきなり話を振られ戸惑ったけれど、一度は久瀬先輩の歌声を聞いてみたいという興味に駆られ、俯きながらも遠慮がちにそう言った。

「ほら、せっかく女の子二人が頼んでるんだからさあ。な?」

「……。うーん、分かったよ。じゃあ一曲だけな」

速水先輩にマイクを再び持たされた久瀬先輩は観念したようにバラード曲を一つ送信した。
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