これが、あたしの彼氏です。【完】


その後、一度は聞いた事のある定番曲がそっと流れて来て、久瀬先輩が小さな深呼吸をひとつ落とす。そんな久瀬先輩を、あたしは威嚇するような目でじーっと見つめていた。


「……ちょ、久瀬先輩凄く歌上手くない?」

優しく歌い始めた久瀬先輩の歌声に、隣の由希がこっそりとあたしにそう耳打ちしてくる。あたしはそんな由希に「…うん」と小さく頷きながらも、どうしようもなくトロンとする瞼とニヤける口角を必死に抑え込んでいた。

どうしよう、凄くかっこいい。
歌ってる姿だけじゃなく、久瀬先輩から発せられる少し低い声にも魅せられる。
ウトウトしながら耳と目に神経を費やして久瀬先輩をじっと見つめていると、最後まで歌い終えた先輩が「あぁ、やっぱ恥ずかしいね」なんて言いながら薄い苦笑いを浮かべた。

「久瀬先輩!すっごく上手かったですよ。ねっ、心?」

「えっ、あ…、はい。……凄く素敵でした」

「えぇ。お世辞なら要らないよ。でもありがとう」

久瀬先輩が照れくさそうに笑ってそう言うと、何故か速水先輩が子供みたいな態度で「俺の時は誰も褒めてくれなかったくせにー」と唇を尖がらせた。
そんな速水先輩にニコリと笑った由希が「速水先輩もカッコ良かったですよ」と声を掛けると速水先輩は照れたようにはにかんでいた。
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