これが、あたしの彼氏です。【完】
「くそ、蒼稀に昼飯代貸してやったの忘れてた」
小さく舌打ちを零してそう言った矢沢君の言葉にあたしは途方に暮れる。
「じゃあ、あたしはどうすれば…」
「……俺の家に来い。家に帰れば金もある」
「えっ、矢沢君の家?それはちょっと…」
「あ?変な事想像してんじゃねぇぞ、てめぇ」
「なっ、してないよ!」
その後、矢沢君の家に行くのは正直少し抵抗があったけれど、矢沢君にわざわざお金だけ持って来てもらうのも大分抵抗があったので、あたしは何も言わずに矢沢君の家に行かせてもらう事にした。
駅を出るとまた雨がパラパラと降り始めていて、矢沢君はまた嫌そうに舌打ちを落としていた。傘を差しながらしばらく歩いていると、ズラーっと奇麗に並ぶ大きな住宅街が見えて来る。
「着いた。此処」
「へぇ、意外と普通…」
「どんな家だと思ってたんだ、お前」
矢沢君が指を差した家に目を向けると、そこは極普通の何処にでもありそうな一軒家だった。新築なのか、全体的に奇麗な印象を受ける。
「いつまで見てんだ、さっさと入れ」
矢沢君は低い声でそれだけ言うと、あたしを家の中へと入れてくれた。
「…お家の方は?」
「知らね。けど今は居ない」
「ふーん。あ、お邪魔します…」
「おう」
あたしは少しドキドキしながらも矢沢君の後ろに付いて行くと、「先に俺の部屋行ってろ」と託された。
「俺の部屋、二階上がって付きあたりすぐだから」
「…あ、うん。分かった」
そんな言葉にあたしは少し戸惑いながらも、二階に繋がる階段をゆっくりと昇り、付きあたりの部屋を探す。
すると何とまあ分かりやすく「勝手に入んな」と書かれた紙が扉に貼られてあって矢沢君の部屋はすぐに見つかった。