これが、あたしの彼氏です。【完】
その後、矢沢君に汲んで来てもらったお茶を少しずつ喉に流し込んでいると、不意に一階からガチャリと玄関の戸が開く音がした。
「………」
……誰か、帰って来たのだろうか。親御さんとかかな…なんてそんな分かり知れない緊張と戦っていると、不意に誰かの足音が段々とこっちへ向かって来ているのを感じた。
それなのに、目の前の矢沢君はしらっとしていて一向に見向きもしない。
すると、不意にガチャリと矢沢君の部屋の扉がゆっくりと開いた。
「シン」
矢沢君の名前を呼んで、扉の前にスッと立つ奇麗な女の人。
ちょっと低い女の人の声を聞いた矢沢君は、扉の方へゆっくりと目を向けた。
「貴方帰ってたのね。いつもフラフラしてあまり帰って来ないくせに」
「………」
低い声でそれだけ吐き捨てる謎の女性は、矢沢君をじっと見つめると、次にあたしへと視線を移して来た。
「………っ」
あたしはそれにビクッとして、額と掌にどうしようもない冷や汗を掻く。
「あ、えっと…」
「あら。あんたが女の子連れて来るなんて珍しいじゃないの。シンの母です。よろしくね」
「あ、いえ、…こちらこそ、はじめまして」
いきなりニッコリと笑顔を向けた女の人があたしにそう話掛けると、
「…気安く話掛けてんじゃねぇよ」
物凄く低い声が、あたしの目の前からそっと聞こえてきた。
「………」
この女の人は矢沢君のお母さんだったんだ。なのにこの二人の間に漂う空気は凄く険悪なように思える。