これが、あたしの彼氏です。【完】
「……心配しなくても、荷物がまとまり次第ちゃんと出て行く。だからもういいだろ。女が来てんだよ」
矢沢君が弱弱しい声でそう告げると、目の前のお母さんは不意に小さな溜め息をひとつ「はあ」と吐き捨てた。
「………。分かったわ。いきなりごめんなさいね。シン、今日はどうするの」
「……蒼稀の家に泊まらせてもらう」
「そう。なら良いわ。じゃあね」
お母さんはそれだけ言うと、何事もなかったかのように一階に繋がる階段をスタスタと下りて行った。
「………矢沢く」
「悪ぃ。…気ぃ悪くしただろ」
「……あ、いや、そんな…」
「ごめん」
「………」
寂しそうな表情を浮かべながらそう謝って来る矢沢君に、あたしはどうしようもなくギュッと心臓が締め付けられたような感覚に陥って、矢沢君の辛そうな表情を見ていられなかった。