これが、あたしの彼氏です。【完】
「…………」
―――ああ、どうしよう。もしかしたら矢沢君はこの家に戻って来るのが物凄く嫌だったのかもしれない。あたしがお金をちゃんと持っていれば、矢沢君がこんな辛そうな顔をすることもきっとなかったに違いない。
「……ごめんなさい」
「あ?」
あたしが小声でそう言うと、矢沢君は何でお前が謝るんだとでも言いたそうな表情を浮かべた。
「だって、矢沢君…あたしの為にこの家に戻って来てくれたんでしょう?だったら、」
「あ?お前が悪いなんて、これっぽっちも思ってねえよ」
「………」
「服の替えもそろそろ取りに来ないといけなかったし、金だって底をついてたから丁度取りに行こうと思ってたところだ。だからお前が悪いわけじゃない」
「………」
「あのババアが言った事は気にすんな。俺もあんま気にしてない」
「………矢沢君」
何故だろう、胸が痛む。矢沢君が少しでも寂しい表情を見せる度に胸が軋む。
あたしの中の矢沢君は、怖いもの知らずで直球で素っ気なくて、人の意見なんて全く聞かない、物凄く最低な野郎だと思っていた。
けど、こうやって矢沢君の寂しそうな姿を見ると、心の中には物凄く大きな闇を抱えているのかもしれないと、単純にそう思ってしまった。