これが、あたしの彼氏です。【完】
「……矢沢君、お引越しするの?」
「あ?あぁ。近いうちにな」
「そっか。だから段ボールが…」
「あぁ。居心地悪いだろ」
「いやっ、そんな」
あたしが焦りながらそう言うと、矢沢君は不意に「ふっ」と小さな笑みを零した。
「えっと、何処に引っ越すの?」
「あ?あぁ。お前が使ってる駅から差ほど遠くはない」
「え?」
「山本駅の次の駅だ。その近くに大きなマンションがあるらしい」
「へぇー。って、それ、あたしが使ってる山本駅から凄く近いよ?確か電車で5分も掛からないところだと思う」
「ああ。だからさっき遠くないって言っただろうが」
「あ、そうでした」
その後、すぐに時間は過ぎて行きそろそろ家を出ないと次の電車に間に合わない時刻となっていた。それに気付いた矢沢君が「そろそろ行くか」と腰を上げて、不意に押し入れの中から適当に数枚の服を取り出したかと思うとそれを大きなカバンに詰め込んでいた。
矢沢君と家を出て行く瞬間、矢沢君のお母さんは顔を出すどころか、たった一言さえ声を掛けては来なかった。まるで、勝手にしろとでも突き放すように。
矢沢君は一度お母さんが居るリビングの方にチラリと目を向けたけれど、すぐにパッと目を逸らした。
「…行くぞ」
「あ、うん…」
そう言った矢沢君の言葉は、やっぱり少し寂しそうだった。