ユーダリル
伝令は唐突に
暖かい日差しが、燦燦と降り注いでいる。
季節は初夏で、青々とした牧草がさらさらと風に揺れていた。
そして今回、少年が訪れた場所――それは、多くの家畜が放牧されている牧場。
柵の先では、草を食む牛の姿が見受けられる。
更に奥まった位置には、モコモコとした毛並みが可愛らしい羊達。
どの家畜も生き生きと暮らしており、素人の目から見てもいい生活を送っていると判断できた。
この牧場は規模としては小さかったが、全体的に家畜の数は意外に多い。
統一性の感じられない生き物の鳴き声が青空に響き渡り、宛ら合唱を聞いているようにも思えた。
初夏の日差しと、のんびりとした鳴き声。のどかな午後のひと時は、平和であった。
「これで、兄貴の使いでなければ。これくらい、自分で来ればいいのに。別に、遠くないんだから……」
溜息と同時に愚痴を発した少年の名前は、ウィル・ラヴィーダ。ウィルは徐に天を仰ぐと、態とらしい溜息を付く。
そして、この牧場を訪れた本来の理由を考えていく。
思い出すのは、気分が悪い内容。
それにより怒りが込み上げ、清々しい雰囲気は明後日の方向へぶっ飛ぶ。
それは「ラゼット牧場のチーズは、最高に美味いから貰ってこい」という、身勝手な食欲優先の命令を受けていたからだ。
しかし、それに対しウィルは異論を唱えることはできない。
ウィルの一族ラヴィーダ家は、代々手広く商売を行っている。
それにより家は裕福そのもので、ウィルは幼い頃から何不自由ない生活を送ってきたのだが、現在それら全てを受け継いだのが実兄のアルン。
それによりラヴィーダ家の財産は、全てアルンが握ってしまった。
ウィルの職業は〈トレジャーハンター〉俗に言う〈宝探し屋〉であった。
中には〈遺跡泥棒〉という名前で呼ぶ者もいるが、ウィルはその道のプロ。
勿論、同業者の間でも一目置かれている存在だった。
宝探しのプロが、何故、牧場でチーズを――
と思われるが、それには実兄の存在が大きく関係している。
トレジャーハンターという職業は、何かと金が掛かってしまう。
同業者の中には金欠で悩む者も多く、節約しながら日々乗り切っている。
無論、現在の資金提供者――アルンには、絶対に頭が上がらなかった。
兄の命令に背いてしまえば、資金提供が止まってしまう。
そうなってしまった場合、仕事をすることができなくなってしまう。
そのようなことが関係し、ウィルは面倒と思いつつチーズを貰いに来た。
これも安定して仕事を行う為と――自分に必死に言い聞かせながら。
< 1 / 359 >