ユーダリル

「何?」

「お洋服の安く買える場所って……」

「えっ! まだ、早いよ」

 間髪入れずに言われた言葉に、ユフィールは口をつむぐ。確かにウィルの言葉の通り、決まっていない前から用意するのも考え。しかしユフィールは、別の面でそれを訊ねていた。

「ち、違います」

「お洒落とか?」

「……はい」

「なるほど! しかし、同じメイドでも違いものだね」

「彼女達にとっては、生き甲斐ですから」

 その言葉に、ユフィールは苦笑していた。メイド達のウィルに対しての動きは、異常に近いものがある。一種の執着心というべきか。また、其処には親心に似た何かがあるのだろう。

 ウィルが絡むと、彼女達は目の色を変える。熱狂的とも狂信的とも取れる行動は、見た者を唖然とさせる。

 彼女達がいれば、問題はない。どのような立場に置かれようとも、バックアップは完璧だ。

 こうなると、問題はユフィール。恋愛に関しては協力を得られるものの、それ以外は頼みにくい。

 何より、貸しを作りたくなかった。それは支払いの時、倍以上にして返さないといけないからだ。

「ああ、そうだ。一緒に行く?」

「何処へ……ですか?」

「いや、買い物。輸入すれば楽だけど、兄貴に頼むと面倒だし。だから、直接買い付けに行こうと思って」

「いいのですか?」

 ウィルの話では、ユーダリルを離れ地上に行くという。それも海岸地帯に広がる、交易地。その説明を聞いたユフィールは目を輝かせながら、何度も頷く。実は、海を一度も見たことがなかった。

 ユフィールもまた、ユーダリル出身。そして生まれてから今まで、地上に降りたことはなかった。地上に行けるということでさえ嬉しい出来事だというのに、海を見ることができる。

 それも、好きな相手と一緒に。これをデートと言わずして、何をデートと呼ぶのか。唐突な提案に思考が止まりそうになってしまうが、ユフィールは懸命に意識を保つと、小声で礼を言う。
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