ユーダリル
ひと時の休日
少しだけ開いた扉から中を覗き見ているのは、メイド達であった。そして部屋の住人は、奇声を発しているアルン。更にその隣に佇むのはセシリアであって、先程から無言を突き通していた。
「機嫌が悪いわね」
「当たり前よ。ウィル様が、行ってしまわれたのだから。これで悲しまなかったら、いつものアルン様ではないわ」
「ええ、そうよね」
「でも、良かったわね」
「ああ、素敵」
「デートって、いいわよね」
アルンの騒ぎとは別に、メイド達は恋の話で楽しんでいた。ユフィールはウィルと、デートへと向かった。
いや、正しくは旅立ったというべきだろう。二人はユーダリルを離れて、地上へ向かった。
どのような愚痴を言おうが、アルンの権力では、どうすることもできない。だからこそあのように暴れ、煩いほど言葉を発する。しかし、セシリアは動じない。これもまたいつものことだと、割り切っているようだ。
「流石、セシリア様」
「アルン様と、性格が反対の方がいいわね」
「ええ、威厳がないわ」
ここぞとばかりに、溜まりに溜まった愚痴を発していく。だが、アルンの耳には届いていない。いつもなら「地獄耳」という困った技能を発揮し、どんなに小さな言葉であろうと聞き分ける。
しかし今回は、ウィルのことで頭がいっぱい。それが幸いして、メイド達は愚痴を楽しむ。
「どうしてこうなるんだ!」
「アルン様の所為です」
「何?」
「ユフィールに、ウィル様の看病を任せました」
その言葉に、覗き見をしているメイド達が一斉に頷く。アルンは、間違いなく命令を下した。それも「ウィルの看病の為に」という明確な理由をつけたが、そこには落とし穴が存在した。
アルンは、相手の特定をしていなかった。だからこそメイド達はユフィールを選び、彼女を行かせた。つまり、アルンの指示不足。もう少し丁寧に細かく物事を言っていれば、このようなことにならなかった。