ユーダリル

 いつもの事務的口調で、セシリアはそのことを伝えていく。すると、アルンの顔が怒りによって赤く染まっていく――

 ということはならず、徐々に血の気が引いていく。お陰で、顔面蒼白だ。そして項垂れ崩れ落ちると、自身の計画の甘さを嘆いた。

 しかし、今更後悔したところで後の祭り。こうなれば居場所と特定し、連れ戻すしかない。セシリアやメイド達にしてみたら、そのようなことをされたら困ってしまう。二人っきりの時間。アルンの妨害行為は、鬱陶しい、よってもしもの場合は、メイド達がアルンに襲い掛かる。

 たとえ相手が雇い主であろうと、関係ない。それだけアルンは信頼されておらず寧ろ「給料を渡してくれる人」という立場に置かれていた。よって大勢の人々は、ウィルの味方をする。

「そのようなことより、お仕事をしてください」

「そのようなことではない!」

「いえ、そのようなことです」

 いい加減、子供のように駄々を捏ねるアルンに、セシリアは一括する。そんな母親と子供のような関係に、メイド達は噴出してしまう。流石にこの声は聞こえたらしく、アルンが睨み付けてきた。

「何をしている」

「見学です」

「仕事はどうした?」

「い、今からです」

 気付かれたとなれば、これ以上止まることはできない。メイド達は蜘蛛の子を散らすように逃げて行くと、それぞれの持ち場へと向かった。そして残ったセシリアにアルンは、質問をぶつける。

「何故、邪魔をする」

「邪魔をしているのは、アルン様です。どうして、二人の仲を認めようとはしないのですか?」

「ウィルは、まだ15だ」

「恋に、年齢は関係ありません。ウィル様もいずれは、素敵な女性と結婚をしなければいけません。それに――」

 しかし、途中で言葉を止めてしまう。これ以上の説明は不要と判断したのだろう、溜息をついていた。このブラコン体質は、治すことができるのか。思った以上の特効薬は見つからず、今に続いている困った性格。

 これでセシリアとの結婚を真剣に考えているのだから、悩みの種が尽きることはない。もし結婚後も同じ性格を続けていたとしたら、泣いてしまうだろう。だからこそこれを機会に、本音を言わなければいけなかった。
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