ユーダリル
「そうだ! 抱きついていいよ」
「で、でも……」
「構わないよ。ユフィールが地上に落ちたら、そちらの方が困るからね。ぎゅっと抱きついていいから」
そのように言われてすぐに実行できるほど、ユフィールの心は強くはない。抱きついていいという言葉に顔が真っ赤に染まり、意識を手放しそうになってしまう。次の瞬間、ユフィールの身体が傾いた。
だが、寸前でウィルが腕を掴んだ。もう少し遅かったら、ユフィールは地面に落ちていただろう。助けられたことにディオンは悔しそうな表情を見せるが、二人は気付いていない。
「大丈夫?」
「……ウィル様」
「ディオン! 速度を落とせ」
いつにない厳しい口調であったが、ディオンが速度を落とすことはない。首を左右に振り、珍しく反抗を見せる。それはディオンなりの抵抗であったが、ウィルが許すわけがない。
この場合、ユフィールの命の方が大切。ディオンは空を熟知しているので、落ちようが助かる。
しかし翼を持たない人間は、落ちたら地面に叩きつけられるだけ。その途中、助けが入れば別だが。
「言うことが、聞けないのか」
流石にこのように言われたら、従うしかない。このまま我儘を続けていたら、口を聞いてくれなくなってしまう。ディオンにしてみたら、其方の方が悲しい。毎日、泣いているだろう。
これはある意味で自業自得。我儘を突き通さず、ウィルの言葉に従えばいいのだが、思考が其方に向くことはない。考えれば考えるほど「ユフィールが憎い」という感情が、湧き出てしまう。
「ウィル様、いいですから」
「ユフィールは、遅い方がいいだろ? 慣れない空の旅。無理をすると、後々苦労することになるよ」
「そんなことは、ありませんから」
「嫌なことは、言ってほしいな。ディオンの我儘を聞くわけには、いけないし。先程から、本当におかしいよ」
ペシペシとディオンの頭を叩きながら、愚痴をこぼしていく。今までは、素直で可愛かった。それだというのに数日前から、その性格が一変。気に入らなければ暴れ、時として物を破壊する。